12. 横向き

母は最初普通に仰向きで寝ていたが、春頃から横向きを好むようになった。これは舌を通常の位置に置いておくことが難しくなって、仰向けで寝ていると舌が喉を塞ぎ、辛そうになってきたことと一致しているように見えた。昼間は「横向き」にしようと言って、外の見える左向き、家の中が見える右向きと適当な角度に誘導した。次第に夜も横向きになった。ベッドの柵につかまることが増えたのは身体の安定や視力の衰えも相まっていたと思う。

次第に“タン“が絡むことが増えて、看護師がタンを吸引除去する装置を持ってきてくれた。姉はこの装置をしばしば使ったが、私は口腔掃除用のスポンジで絡めとる方を選んだ。母もこの方法を好んだように思う。横向きは絡んだタンを除去するのにも都合が良かった。ある程度の時間横向きでいると、下側にたまるタンが比較的楽に除けた。