23. 在宅介護総括 <了>

在宅介護には良い面も大変なこともたくさんあった。今回はコロナ禍、緊急事態宣言下という特別事情がその余儀ない“選択”に繋がったが、その影響は、最初の懸念材料となったお風呂サービスの提供を受けられることになったことで、小さく抑えられた。 一番の問…

22. 生命

生命とは不思議である。 母と繋いだ手はそのままで、もし呼吸を止めたのを見ていなかったら、私は母が亡くなったことに気づかなかったかもしれない。むしろ、それまでおそらく酸素不足で紫がかった色をしていた手や喉の周りに肌の白さが戻ってきた。母は自分…

21. 死亡診断

丸1日起きていた母を置いて仕事に。夕方、ハアハア苦しい息をしていると連絡があり、当日は諦めて、翌朝母のところへ。姉によると夜中起きていたらしい。丸2日だ。ハアハア息をしているところで、少し口の中をきれいにしたが、もう口が開かない。息が急に落…

20. 最期、眠らない2日間 

「食べられない」事態がやってきた。水分点滴をし、喀痰の除去をし、合間の落ち着いたところで食事を試みるが、飲み込むことができない。この状態で少し苦しそうな呼吸を続けていると口の中が乾燥してくるのがわかる。お茶をストローにためて少しずつ横にな…

19. 命の長さ

「命の長さ」は誰にもわからないが、人の関わる部分もある。それが医療だ。診断、治療、いずれも命の長さに影響する。時にはダイレクトに。また、政府のコロナ対応としての緊急事態宣言も、コロナではない患者の「命の長さ」にも大きな影響を与えたはずだ。…

18. 介護サービス

介護サービスには多くの医療人が関わっているが、基本的には医療はあまり提供しない。医師、看護師は体調を見て、血圧、熱を計り、聴診をしてくれる。必要な時には、パルスオキシメーターで酸素飽和度を測定し、排泄介助もしてくれた。基本的体調管理という…

17. 姉

姉は都合で実家に戻り暮らしていた。そんな中、母が脳梗塞で入院となり、病院に見舞いに通った。コロナ禍により家で介護のメイン担当となったのは、前述の通り。最初の介護サービスの怒涛の契約にたじろいだかに見えた。しかし間もなく、「私向いているかも…

16. 記録

介護サービスは毎回実施記録を残していく。私たちも記録をつけていた。食事の量 [ムース1個=0.4] として1回の食事で 1.0が目標。食事にかかった時間。体温、排便の有無、飲んだ薬。最初に設定したこの記録、あっという間に、1)薬が飲めなくなり、2)食べる目…

15. 食(3)

だんだん食が細くなっていく。一食あたり「ムース2個+アルファ」を 食べてもらう計画が、毎食半分くらいになった。この頃は食事をしている間に寝てしまっているようで、大きな声をかけながら食べてもらう。ヨダレが出てくることが多くなり、これ以上無理と…

14. 母@ベッドで

冬の時期に「寒い、寒い」と頻繁に訴えて、湯タンポを使った。湯タンポはネットで購入。今や使われることが少なくなったと思われる湯タンポ、小ぶりで今風になり、十分に役立ったようである。暖房を入れていたが乾燥する。電気のパネルヒーターを使っていた…

13. 側で

母の側で。食事以外の時間に何をしていたか。 最初はリハビリと思って、話すこと、書いてもらうこと、に努めた。両親は幾度も海外旅行に行き、その写真や、私の知らないところでの未整理の写真がたくさんあったので、写真を一緒に眺めたりしながら話をした。…

12. 横向き

母は最初普通に仰向きで寝ていたが、春頃から横向きを好むようになった。これは舌を通常の位置に置いておくことが難しくなって、仰向けで寝ていると舌が喉を塞ぎ、辛そうになってきたことと一致しているように見えた。昼間は「横向き」にしようと言って、外…

11. 食(2)

食事は私たち家族が母の口まで運ぶ。これはサービス業者がやらないサービス。つまり、食べることができなくなるか、口まで運ぶことができなくなった時に最期がやってくるお約束。 手際でむせさせてしまうのか、仕方ない範囲なのか、母の様子を見ながら、食事…

10. 視力

4月、母は目が見えないと不調を訴えた。かなり見づらいようだ。 元々、目には眼底出血、白内障(手術済み)、加齢性黄斑、などの問題を抱え、眼科で治療を受けていた。予約なしで行った眼科は混雑しており、午後一番くらいに行ったが、診療が終わったのは最…

9. 車イス

少し春めいてきた頃、母が車イスに乗れるのではないかという話が出て、車イスもレンタルすることになった。看護師やヘルパーが姉と一緒に車イスで何度か外出をさせてくれた。座っている状態が安定とは言えないが、母は外出を好んだ。元々家庭菜園を好んだ両…

8. オムツ

最初に脳梗塞を起こしたとき、母は家でのトイレ後処理が難しくなり、大量のトイレットペーパーを使うようになった。そして、トイレットペーパーでトイレが詰まる事件が起きた。対応に大わらわ。とりあえずの対策は ロールペーパーを取りやすくする。切ったの…

7. コミュニケーション

母はよく日記を書いた。家計簿を書いた。入院時に、話が聞き取れないことが増えた。書いてもらおうと紙とエンピツを差し出すと、書いてくれるが、ラインがずれたり重なったりして読めないところが多い。読めるところはわかるので、きっと読めないところもち…

6. 薬

利用しているのはクリニックの介護サービスだが、薬は薬局からとのことで、馴染みのある薬局を選んだ。介護中の外出が難しいこともあり(半分は気持ちの問題で、おそらく短時間の外出は問題ない)、配達してくれることになった。これも契約だった。当初は脳…

5. 訪問入浴サービス

介護のスタート時に入浴サービスを紹介された。しかし、東京在住の私が行くと、2週間は来られないという、、、。コロナ禍だ。 そうこうするうちに、東京から人が来てもOKという業者があり、訪問入浴にきてもらえることになった。家の状況次第らしいが、実家…

4. 食事前後ルーチン

食事の前にはちょっとしたリハビリを続けていた。 ・「あいうえお」を2回くらい発声。 ・舌を上下左右に動かす運動。舌が動かせるかどうかは、ある程度飲み込みのバロメーターである。 ・その後、口腔用スポンジで口の中を水で潤す。 だんだん舌の位置が後…

3. 食 (1)

食事のメインは「ムース」。様々な栄養が入っており、お湯で溶かし固め、柔らかいムースを作る。お茶などの飲み物は “とろみ ”をつける。 嚥下困難者の食事のキーワードは“とろみ ”。トロミ のない食品、飲料は飲み込みが難しい。お茶にトロミ、水にトロミ、…

2. 介護ベッド

地域包括支援センターの手配で、退院の前日にレンタル介護ベッドが搬入された。退院日当日、姉が付き添い、母は福祉タクシーで簡易ベッドに寝た状態で帰ってきた。母が寝室にしていた部屋でベッド生活をスタート。ベッドは電動高機能。背中、頭、足、全体の…

1. 介護の始まり

次々と介護関連の人がやってきた。次々と契約が進行する。 介護認定。介護ベッド搬入。ケアマネージャー。 介護依頼先の選択。地域で選べるのは基本的に2つの介護サービス業者だ。母がこれまでに受診経験のあるクリニックの入っている介護サービス業者を選…

“食”介護エッセイ ― コロナ禍@実家で ―

母の呼吸が止まった。息を吐ききった。苦しい息の母を待たせてしまったかもしれない。前日、今日だけ「行ってきます」と実家から出勤した私を待っていてくれたかのようだった。姉と夜通し起きていたという。 I miss you. I really miss you. 2019. 10月 遡る…